煙の玩具38

 また、僕の使えないパイプです。 Poul Hansen のパイプって、初期のころは結構ダイナミックで、大味がいい味だったんですけど、工房の作家さんたちの中に、小さいパイプが好きな人がいたんでしょうか? ノーズウォーマーです。悔しいことに、カッコいいパイプなんですよ、これが。でも、これを使うと、目がウサギの眼になってしまいます。

 これを買ったのには、少々、込み入ったお話があるのです。前に書きましたが、このパイプを購入する日の早朝、つまり、前日の深夜、僕はヤフオクで不気味なライバルと戦っていたのです。

 それは、確かに非常に美しい Hansen のパイプでした。多分、あれはおそらく、 Poul Hansen 自身の作品だったと思います。ため息が出るほどグレインが整った、素晴らしいパイプでした(←逃がした魚は大きく見える)。そして、僕が戦っていたのは、まさに消耗戦。相手は入札額が4万円を超えても追随してくる。最後には、僕はこの不気味な相手との戦いから手をひきました。4万あるなら、僕は Hansen ではなく、もっとランクの高いデーニッシュパイプを買うでしょう。そもそも、僕が Poul Hansen のパイプを選んだのは、それほど高くないっていう利点があったからです。僕は、どこかで画面を睨みつけているはずの相手に「いいよ。持っていきなよ、それ」と捨て台詞を吐くと、さっさとマイスリーをのんで寝てしまいました。

 翌日、僕はパイプの仲間からの電話で起こされました。「Hansen があがってますよ!」との声に、僕は不機嫌に「知っているよ。やり合った。4万超えたところで撤退した」と応じました。

 友人は「へ?」と一瞬、混乱してから「京垓さんの USED のコーナーに Hansen があがってるんですよ。オームポールに似た、あんまり見ないシェイプの」。

 20分後に、僕は家を出ていました。そして、1時間30分後には、新所沢の駅の階段を駆け下りていました。

 最初にそのパイプを手に取ったとき、僕は例によって落胆しました。思ってたよりも小さなパイプだったのです。でも、昨夜の敗退に心傷ついていた僕は、その珍しいシェイプの Hansen を買うことによって、少しは気晴らしになるかなと思いました。

と、いうわけで、今でも僕の部屋には、その Hansen があるのです。