煙の玩具45

「もう1本のほうも見せていただけますか?」と僕が尋ねると、ご主人は「う」と言って、再び店の奥をごそごそと探し「う」っと言って、左右非対称のパイプを見せてくれました。ずっと Hansen を追ってきましたが、この日のように1日2本のパイプを購入することができたのは、これが初めてでした(その後、僕は銀座、菊水さんの Hansen の大量入荷に翻弄されることになります)。それに、喫煙具屋さんに来て、一度もパイプのことを話さずに帰ることになったのも、この日が初めてでした。

 1本目より若干ファンシーの雰囲気を持ちつつも、44と同様に平たいアクリルのステムをもち、握り心地がいいパイプでした。僕は最初から、この2本を狙って錦糸町に来たのです。「こちらもいただけますか?」と僕がいうと、ご主人は「う」と言いながら、全然別の会社のパイプの箱に入れて、僕にわたしてくれました。いい気分でした。帰りの電車の中でも、僕はニコニコしていました(僕がニコニコのつもりでも、他人様からはニヤニヤ笑っているように見えたかも知れません)。

 この日、僕が入手した2本の Hansen は、その後、僕が幾本も購入することになる平らで大きいアクリルのステムがついた、おそらく、Poul Hansen 工房のかなり後期の作品だと思います。それでも、僕にとっては充分に「具合がいいパイプ(加えて、弟分の、45のパイプのほうが咥えやすかったのは意外でした)」だったので、いい気持ちで眠ることができました。そのとき、僕はまだ、銀座菊水さんに大量の Hansen が入荷していることを知らなかったのでした。