煙の玩具63

「逃してしまうと一生後悔しそうなパイプ」というものがありまして、僕はよくその幻覚の中で苦しんでいます。僕は、逃してしまった辛さを知っているので、次にそういったパイプが現出したときは、何にも集中することができず、常にそのパイプのことを考えて社会的行動がとれなくなってしまうのです。
 僕の HANSEN 好きを知っている方が、電文を打ってくださいました。「LS安藤サン二 HANSEN 見ユ、“MEMORIAL”ト認ム」

 大変なことになりました。“MEMORIAL”は HANSEN の高級グレードです。60本以上の HANSEN を溜め込んだ僕も2本しか所有していないのです。血が突然、冷たくなったような感覚でした。僕の中の“僕会議”の僕たちが、それぞれ勝手なことを叫びだして会議は踊り、しかし、全然進まず、足は震えっぱなしです。

 とりあえず、リビングショップ安藤さんに電話をして、リザーブしてもらって、ようやく人間らしくなりました。

 17日土曜日。凍るような雨の中、僕は小田急相模原駅で降り、あのまっすぐな道をてくてく歩いてLS安藤さんに向かいました。

 手にとらせてもらったそのパイプは、素晴らしい1本でした。地味な意匠ですが、柾目が奇跡のように揃っていて、埋めなどあろうはずもなく、入手できなかったら、今後の人生を確実に暗くしてしまうだろうことがはっきり予見できるようなパイプでした。買いです。買いでした。買いなのです。

 その“MEMORIAL”は、今、この文書を書いているPCのすぐ右手に置いてあるのですが、まだ、なんとなく、このパイプを無事に購入し、自分のものにできたということが信じられず、何度も目と手で確認している有様です。ちゃんとある。手で握ることもできる。でも、本当に現か? 夢ではないのか? 実感できるようになるまで、あと数日かかりそうです。