煙の玩具42

 オクで落札したような記憶があります。出品者様は「パイプには詳しくないので」と記していたような。だから、落札の金額も高いものではなかったのではないか、と思います。

 パイプのことをよく知らない出品者様から送られてくるパイプは、ときに悲惨な状態だったりするので、このパイプが届いたときは開封する前からレストア七つ道具を準備して、部屋のベッドで胡坐をかき、鋏で開封しました。そして、僕は愕然とするのです。

 このパイプは、Poul Hansen の“MEMORIAL”だったのです。この刻印は、ミッケのゼブラマーク(全然、値段は違うけど)と同様、特別なパイプに打刻されるものです。そんな、Hansen を僕は非常に安価で入手したのでした(もちろん、出品者様にはお礼のメールを打ちました)。

 神秘主義者を嫌う僕も、このときはさすがに人知を超えた何かが存在する、と思いそうになりました。“MEMORIAL”については、英語で説明してくれるサイトがあったので、知っていました。自分の運の悪さを熟知している僕は「いいなあ」と軽く羨む程度で、渇望に駆られたりはしませんでした。「そんなもんが僕のところに来るはずがない」と思っていたからです。ところが、こういうものがあっけらかんと手に入るときがあるんですね。この“MEMORIAL”が僕のところに来てから、人生観が少し変りました。「お前はそんなに、徹底的に運が悪く創られているわけじゃないよ」という声が、雲の隙間から地面に降るレンブラント光の中から聞こえたような気がしました。

 ところで、そのパイプに“MEMORIAL”の文字を与える判定って、実際は誰が仕切っているのでしょうか。最初、僕は Poul Hansen 自身が自分の会心の出来のパイプに刻んでいるのかと思っていました(このパイプが、結構、古そうだったので)。ところが、いずれ、もう1本入手することになる“MEMORIAL”は、工房末期に作られたものとしか思えないのです。それでも、決定権は Poul Hansen が持っていたのでしょうか?

 最後に、このパイプ、あんまり具合が良くないんですけど。