煙の玩具54

 買うしかないって気持ち、わかりますか? 買った先に、どうも幸せなんて来なさそうだって、知っているのに。でも、自分のものにしなければ、ずっと苦しむことになるってこともわかっている。

 これが、そのパイプです。

目にし、手にしたときにわかりました。これを購入しなければ「この世界」でも前に進めなくなる。新しい失敗の傷跡が残るだけ。

 だから、買いました。

 僕はこのパイプに“皇帝”というニックネームをつけました。そして、未だ、僕は一回も、このパイプに火を入れていません。だって、その重量もデザインも、人が喫うことを考えて作られていないのだから。

 どこかで予想していたようなオチになりました。菊水さんから連絡が来なくなり、日々が過ぎていきました。でも、僕が菊水に赴くと、店員さんがお茶を出してくれる。この、伝説のお店で僕はお茶を飲んでいる。故・早川良一郎氏のように。夢のようです。この場所に僕がいられるように導いてくれた、偉大な先達お二人に感謝します。