煙の玩具54

 買うしかないって気持ち、わかりますか? 買った先に、どうも幸せなんて来なさそうだって、知っているのに。でも、自分のものにしなければ、ずっと苦しむことになるってこともわかっている。

 これが、そのパイプです。

目にし、手にしたときにわかりました。これを購入しなければ「この世界」でも前に進めなくなる。新しい失敗の傷跡が残るだけ。

 だから、買いました。

 僕はこのパイプに“皇帝”というニックネームをつけました。そして、未だ、僕は一回も、このパイプに火を入れていません。だって、その重量もデザインも、人が喫うことを考えて作られていないのだから。

 どこかで予想していたようなオチになりました。菊水さんから連絡が来なくなり、日々が過ぎていきました。でも、僕が菊水に赴くと、店員さんがお茶を出してくれる。この、伝説のお店で僕はお茶を飲んでいる。故・早川良一郎氏のように。夢のようです。この場所に僕がいられるように導いてくれた、偉大な先達お二人に感謝します。

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 この大ぶりのピリアード・ベントは、京垓さんの社長がシカゴのパイプショーの会場から持ち帰ってきた9本の中の最後の1本です。このパイプはその特徴として、シャンクの断面が“○”ではなく“0”で、上下に楕円を描いています。

 とにかく、ボウルのでかさがすごい。映画を観ながら3時間はもちます。それでなくても大きなパイプなのに、そのマウスピースとシャンクに比して、ボウルがあまりにもでかすぎて、なんだか笑えるパイプです。されど Hansen その全体が美しいパイプです。さんざん、ぐにゃぐにゃしたファンシーパイプを作っていた工房が、こんなきちんとしたパイプを作っている。ファンシーを作りたいだけ作って、落ち着いたのかも知れません。

 もう、お店から買うのは難しいかもしれないですね。どうしてもオークションにあげられてしまいますから。僕は、最後まで心臓がバクバクするオークションは、実のところは好きではないんですけど、時には戦わなければならない。だから、今も戦っています。

 勝利し、また戦利品の Hansen をこのブログに加えたいものです。

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 記録によれば、僕は2011年の05月26日に京垓さんからパイプを購入しています。

 社長が日本に Hansen のパイプを9本、持ち帰ってきたのです。その9本の中で4本は“平成 Hansen”だったので、売れてしまっても悲しくもなんともありませんでしたが、残りの5本は素晴らしいものでした。月に1本ぐらいずつ購入していたのですが、社長が RESERVED にすることを許してくださったので、気持ちが楽になりました。

 この小ぶりのベントは、その5本のうちの1本です。とても「具合がいいパイプ」です。地味ですが、僕にとっては宝物です。

“シカゴからの9本”は、最初は衝撃で(ものもよくわからないのに9本とも買おうとしていた)焦燥感に駆られましたが、なんとか納得がいくパイプを5本、購入することができました。

 やれやれです。

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 記録によると、2009年10月、銀座、菊水さんに Poul Hansen のパイプが8本入荷されています。僕は、菊水の常連である2人の先達、そして、菊水さんの営業部長様の好意(リザーブしてくれていたのです。僕の所得も知らないのに。涙が出てきます。さすがは大店ですね)によって、その中の5本を自分のものとすることができました。

 最初に購入したのは、このパイプでした。

 木に圧縮でもかけたのか、やたらと重く、かちんと硬いパイプです。僕はこのパイプに “Tank = 戦車”というニックネームをつけました。このパイプは、この時期に菊水さんが入荷した Hansen のパイプの特徴の数多くが見受けられます。まず、塗りの色が明るく、ステムはアクリルです。そして、まったく使用感がなく、木が重いのです。

 おそらく、工房の末期に作られたものか、僕の知らない出自を持っているのか、どちらかでしょう。両方である可能性もあります。僕は最初のこの1本を購入し、具合を見て、できるだけ多く購入できるようにお金を工面しました。全力で頭を使ったのですが、パイプ喫みとしての僕にとって、最高に楽しい時期でもありました。

 実はこの“Tank”の次に買ったパイプこそが“皇帝”の迫力を持った1本なのですが、その紹介は最後にします。

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 これが、47で僕を翻弄しつづけたパイプです。

 まあ、いろいろあって、結局、僕のところに来ました。こんなに自立しそうなシェイプなのに、立つことはできません。その姿が何かを叫んでいるようなイメージがあるので、僕は「絶叫君」と呼んでいます。

 これはインチキやって立たせたところです。僕にとっては「具合のいいパイプ」です。後に、このパイプを日本に引いてきたのは、パイプの騎士、柘 恭三郎氏であることがわかりました。

 古いパイプで、ステムはエボナイトです。これを作った人、Poul Hansen 氏かなあ。それとも、師匠のデザインを学んでいる職人さんでしょうか。断言はできません。

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 小さいパイプは目に煙が来るので、好きではないのですが、そのあまりの小ささに可愛さを感じて購入したパイプです。

 安かったし、なんかもう手に入らないような気がして買いました。

 生姜糖を入れてみたくなります。

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 ほろ苦い話をします。
 まずは、このパイプを見てください。これは、れっきとした Poul Hansen のパイプです。まあ、本人が作ったものではないでしょうが。

 ひどいでしょう? これ。やる気が全然感じられないでしょう?

 まあ、その頃の僕は Hansen のパイプだったらなんでも買う、みたいなところがあり、こんなものを持っていたって不思議ではないのですが、これが僕のところに来たことについて、ほろ苦い思い出があるんです。

 僕は自分でも不思議と思う力があって、緊急でパイプを買わなければならないときに、何とかお金を捻出することができるんです。だから、あきらめたパイプはあんまりないです。でも、あの日だけは、本当に赤貧だった。

 2010年が始まったばかりのことです。パイプの友人から連絡をもらいました。京垓さんに Hansen のパイプが入ったとのこと。僕はすぐさま京垓さんに電話をかけ、お品代を尋ねました。

 社長は仰いました。「これねぇ、ほんとにオールドの Hansen だから、ちょっと高くなってしまうんですよねぇ」。そして、社長は値段を教えてくださいました。いつもならいざ知らず、そのときの僕には絶対に購入できない金額でした。

 僕は、泣いたような記憶があります。

 そして、そのパイプは売れてしまいました。

 そうこうしているうちに、パイプ喫みの祭典“立川パイプフェスタ”の日が近づいてきました。まあ、僕はあまり、こういう場には足を運びません。僕はパイプを「孤独の道具」だと思っていて、大勢で喫うことに意味を見出せないのです。

 そんな場所に僕が赴く気になったのは「京垓さんが、2本、Hansen を持っていくらしい」という、友人の情報によってでした。そのとき、僕はもう赤貧を脱却し、そこそこのパイプなら買えるお金が準備できました。

 南武線にゆられ、立川の会場に着くと、僕は一直線に京垓さんのブースに突撃しました。そして、そこには2本のパイプがあり……。

 ……そのうちの1本は、売れてしまったはずの、あのパイプでした。

 僕は社長に詰めよりました。胸倉をつかむことも考えていました。

「このパイプは売れてしまったと聞きましたが?」

 僕の問いに、社長は笑いながら「いやぁ、帰ってきちゃったんですよ、このパイプ」。

 そして、そのパイプのお値段は、僕が持参したお金よりも高かったのです。

 もう、僕は平常心を保てなくなっていました。「……血よ、燃えろ」と僕は呟きました。「怒りとともに敵を滅ぼす!」。

 乱心した僕に気づいた社長は「わかりました。このパイプはリザーブしておきます。あと、もう1本は値引きさせていただきます」。

 その1本がこのパイプだったのです。

 そして、そのパイプは、まだ、僕の家にあるのです。